乳がん・緩和ケアで「納得のいく選択」へ導く、トータルケア+代表の川端悠子|事業の強みや大切にしている想い

「対話を通じて、その人の人生に合った治療選択ができるよう、支援したい。」力強く語ってくれたのは、トータルケア+(プラス)代表の川端悠子さん。乳がん・緩和ケアの診断や治療で悩む患者さんのセカンドオピニオン事業で、心身両面から寄り添う「トータルケア」を提供しています。また、臨床心理士として、個人や企業・職場に向けたカウンセリング事業もおこなっています。そんな川端さんに事業の内容や強み、大切にしている想いについてお話を伺いました。
川端さんが提供するサポートの詳細は、以下のサイトをご確認ください。セカンドオピニオンやカウンセリングの概要や特徴はもちろん、実際に利用された患者さんのインタビューも動画でご覧いただけます。
トータルケア+の事業について
川端さんの現在の事業内容についてお聞かせください
現在、トータルケア+では、主に二つの事業に取り組んでいます。
一つ目は、乳がん・緩和ケアの診断や治療で悩む患者さん向けの、セカンドオピニオン事業です。治療中の方もそうでない方も、オンラインカウンセリングやメールカウンセリングをご利用いただけます。担当の専門医と臨床心理士が密に連携し、患者さん一人ひとりの状況に合わせてアドバイスし、ご自身が納得できる形で治療を進められるようサポートしています。病気そのものにまつわる疑問はもちろん、人生に関わるご相談まで幅広く対応可能です。患者さんの価値観や希望を尊重し、その方にとって意味のある医療の受け方・生き方を支援しています。
二つ目は、臨床心理士として、セカンドオピニオン事業とは別に、個人や企業・職場に向けたカウンセリング事業にも取り組んでいます。こちらはがんといった特定の病気に限らず、幅広い悩みに対するメンタルサポートをおこなっています。たとえば、お子様の発達に関するご相談、不登校や夫婦関係の悩みなど、内容は多岐にわたりますね。どのようなお悩みでも、お気軽にご相談いただけたらと思います。
なお、がん患者の方は再発への不安を抱えるケースが多いので、そのような不安の解消に焦点を当てた認知行動療法のセミナーもしています。

実績について教えてください
関わってきた案件が多く、具体的な数字を挙げるのは難しいのですが、私自身の実績としては、オンラインのご相談だけでもこれまでで数百件以上担当しています。
私は、臨床心理士として20年活動しており、さまざまな経験をしてきました。特に印象深いのは、児童相談所で働いていたときのことです。虐待の現場に緊急対応をしたり、非行や発達障害など子どもに関する事案の多くに対応してきました。
案件数としては、児童相談所一年目で400件以上担当していました。状況が状況なので、精神的に「きつい」と感じるときもありましたが、勉強をさせてもらったという気持ちのほうが強いです。
これまでの経験を通じて培った柔軟性は、現在の事業でも活かされています。がんや緩和ケアに留まらず、幅広い悩みに自信をもって対応できることはもちろん、その人の人生に関わる場面に多く携わってきたことは、心理士として大きな自信になっていると思います。
川端さんの事業の強みについて教えてください
最大の強みは、医師と臨床心理士が密に連携し、患者さんの心身両面をサポートする「トータルケア」体制です。従来のセカンドオピニオンには珍しい、臨床心理士が医師の診察前に問診や聞き取りをおこなう、独自のスタイルを採用しています。
具体的には、まず臨床心理士である私が患者さんと一時間かけてじっくりお話を伺います。ここで、病気の経過やセカンドオピニオンで聞きたいことに加え、患者さんが抱える疑問や不安、言葉にできない感情、治療に対する考え方や価値観などを丁寧に引き出すのです。
その後、医師の診察を受けるまでに一週間ほど、準備期間をいただきます。私と担当医師とで綿密なミーティングをおこない、患者さんの考え方や生活スタイル、現在の体の状態などを共有するためです。心理士は所見に基づき診察時に配慮すべき点などを共有し、医師と連携しながら患者さんが安心して相談できるよう支援しています。細かい部分まで情報をシェアすることで、医師は患者さんに合わせて、最適な選択肢を提示できます。
がん治療は人生に関わる、大きな出来事です。多くの方が「医師に伝えきれない想い」や「漠然とした不安」を抱えています。守秘義務のある安全な環境で、心理士との対話を通じて、患者さん自身が大切にしたい価値観に気付ければ、より安心して診察や治療を受けてもらえると考えています。
なお、当サービスはセカンドオピニオンとして位置づけていますが、活用方法は人それぞれです。どのようなご相談にも柔軟に対応し、「一緒に悩み、一緒に考えるパートナー」として、安心してご相談いただける場を提供しています。
事業において、大切にしていることはありますか?
私たちの事業では、適切な医療情報をわかりやすく伝えるとともに、患者さん一人ひとりの価値観や思いを大切にし、納得のいく選択ができるよう支援することを大切にしています。
基本的に、治療や手術の内容の選択肢は医師から提示されますが、最終的な決定権は患者さんにあります。たとえば、歌が好きな方に、治療のために声や喉の調子に副作用が出る薬を服用することは、その方にとっての生きがいを諦めさせることになります。
こういった例以外にも、がん治療は、人生に大きく関わることが多いです。髪の毛が抜ける、吐き気がするといった、つらい副作用もありますから、常に前向きに生きていくことだけが正解ではありません。私たちは答えを与えるのではなく、あくまでも患者さん自身が納得し、選択するためのプロセスをサポートすることが役目だと考えています。
患者さんの価値観を尊重するスタンスは、どのようなきっかけで生まれたのでしょうか?
私が緩和ケアに携わる中で、「がんだからといって、患者さんが何もかも諦める必要はない」と強く感じたことがきっかけです。
たとえば、以前は乳がんでホルモン治療を受ける場合、子どもを授かることを諦めなければならないケースもありました。しかし、現在は卵子凍結など、医療技術の進歩によってさまざまな選択肢が生まれています。
がんの告知を受けたとき、多くの方が「一刻も早く治療に専念しなければ」と焦りを感じがちです。けれども、そのようなときだからこそ、一度立ち止まり、自分にとって後悔のない選択肢は何かを考えてもらいたいと思っています。
経歴について
川端さんが今の事業を始められたきっかけについてお聞かせください
この事業は、乳腺専門医である谷野先生との出会いから始まりました。

もともと谷野先生が立ち上げられた事業を、私が引き継ぐ形で現在に至ります。
今から17年前、谷野先生と同じ公立総合病院に勤務していた際、「患者さんが悩んでいるのだけれど、話を聞いてくれないか」と声をかけてくださいました。それがきっかけとなり、少しずつ仕事が増えていったんです。

谷野先生は、乳がん患者さんの自立や人生を大切にしたいという想いから、心理士の必要性を感じてくださっていたようです。また、谷野先生は、乳がん患者さんがオンラインでセカンドオピニオンを活用し、納得して治療を選択するための具体的な方法や利点についてまとめた書籍「オンラインでセカンドオピニオン: 自宅で受けられるセカンドオピニオン」も執筆されています。
病院では、心理士が患者さんの話をしっかり聞くことで、医師には話せない心のうちを吐き出せることに気づかれたようです。「今からがん告知をするから、その後の患者さんの心のケアをしてほしい」「告知の際に同席してほしい」といったご依頼をいただくこともありましたね。
正直なところ、谷野先生に声をかけていただかなければ、事業を立ち上げる発想自体もなかったと思います。谷野先生には心から、感謝しています。
数多くいる心理士の中で私に声を掛けたきっかけについて、谷野先生からコメントをいただきました。

医師として多くのがん患者さんと接する中で、ある種の限界を感じていました。多くの方が、ご自身の不安の核心や本当に聞きたいことを整理できないまま相談に来られます。そのため、まず心理士が「心の交通整理」をする必要があると痛感しました。川端さんはこの役割にもっとも適しており、彼女となら真に患者さんのためのセカンドオピニオンが実現できると確信したのです。
川端さんが、がん分野に携わろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
児童相談所で働いているとき、がんの緩和ケアの心理士をしている大学時代の先輩に、緩和ケアに関する講習の手伝いをしてほしいと誘われたのがきっかけです。
児童相談所で経験させてもらいましたし、「今後は子どもに関わる分野だけでなく、臨床心理士としてより専門性と活動の幅を広げたい」と考えていて。その中で、緩和ケアという新たな分野に魅力を感じ、深く関わるようになりました。
そもそも、なぜ心理学を学ぼうと思われたのでしょうか?
もともと子どもが好きで、最初は保育の学校に入りました。保育士や幼稚園教諭の資格は取ったものの、実習を通じて、「保育士という枠にとどまらず、もっと幅広い視点から人を支援したい」と考えるようになりました。そして、大学の社会心理学科に編入し、本格的に心理学を学び始めました。
現在の事業を始めるまでで、特に大変だったことは何でしょうか?
事業と直接的に関係はないのですが、入職当時は、病院内での臨床心理士の役割を理解してもらうまでが大変でした。単科の精神科では臨床心理士が、患者さんに対してカウンセリングやデイケアのプログラムをおこなっていましたが、総合病院では、心理士の位置づけがほとんど確立されていなかったのです。
医療現場において、臨床心理士は医師の指示のもと、初めて動ける職種なので、心理士の判断で患者さんと接点を持つことは難しいのです。そのため、私が提供できることを医師や看護師、事務員の方々に伝えるところから始める必要がありました。
具体的には、以下のような説明をしました。
- 外科や内科におけるがんの告知後に、患者さんの心のケアができること
- 児童相談所での経験を活かして、小児科で発達検査や発達支援をおこなえること
- 看護師のメンタルサポートによって、離職率を減らせる可能性があること
一年かけて、医療現場のニーズを追求し、臨床心理士の必要性を理解してもらう努力を続けました。苦労した甲斐あって、少しずつ心理士の必要性が病院内に浸透していったように思います。
今後について
川端さんの描く今後の展望をお聞かせください
がん患者さんだけでなく、私たちのサービスを、必要としている方々にもっと届けたいですね。現状では、医師と臨床心理士が連携し、心と体の両面からサポートする「トータルケア」の価値は、まだ十分に世の中から認知されていないと感じています。というのも、心理士が予診で入り、その人が抱えているものを言語化して整理するスタイルは、日本で唯一なんです。
「セカンドオピニオン」という言葉は知られていても、実際にどのようなときに、どのように活用するものなのか、具体的なイメージはあまり浸透していません。また、「どんなときに相談すればいいの?」といった声も多く聞きます。患者さんが悩んだり迷ったりしたときに、一人で抱え込まず、一緒に考え、サポートしてくれる存在がいることを、もっと多くの人に知っていただきたいです。
特に日本では、臨床心理士への相談やカウンセリングという言葉に対して、「ハードルが高い」と感じる方は少なくありません。私たちは、問題の解決だけを目的としているのではなく、その人が大事にしていることを見つけるための伴走者でもあります。専門家との対話を通じて、気持ちが軽くなったり、自分でも気付いていなかった本音を発見したりする機会を提供したい。心理面での相談がより身近になり、気軽に専門家と話せたりする社会の実現を目指しています。
最後に、セカンドオピニオンを検討されている方に向けてメッセージをお願いします
セカンドオピニオンは、主治医や治療方法への不満から利用するものだと誤解されがちですが、それだけではありません。ご自身が選択した治療に確信を持ち、納得して進めていくための大切な選択肢だと考えています。
現状に不満がなくても、お気軽にご相談ください。現在病気と闘っていらっしゃる方はもちろん、がん治療を終えて数年が経過し、「あのときの自分の選択はこれでよかったのだろうか」と振り返りのために活用される方もいらっしゃいます。
それぞれの状況や目的に合わせてサービスを利用していただければ幸いです。私たちは対話を通じて、患者さんご自身が「人生で何を大切にしたいか」に気づき、それに基づいた治療選択ができるよう、丁寧に支援いたします。
インタビュー:中本晃太郎
原稿制作:春野なほ
乳がん・緩和ケアの診断や治療について、他の人の意見を聞いてみたいと思ったときは、トータルケア+にお任せください。臨床心理士として豊富な経験をもつ川端が、真摯に話を伺い、ご自身が大切にしている価値観を見つけるサポートをいたします。がんや精神疾患をお持ちでなくても「話を聞いてほしい」というときは、お気軽にご相談ください。